2018.10.24

ベストアルバム収録曲全楽曲の解説をアップ!

ベストアルバム収録曲全曲解説をお届けします!

■笑
笹川美和の記念すべきメジャー・デビュー・シングルにしてまごうことなき代表曲。独特な節回しが魅力であるこのシンガー・ソングライターの名を世間に広めた1曲であり、作者の手を離れてもっともひとり歩きしている曲でもある。耳を捉えて離さない〈笑い 笑え 泣き 笑え〉という強烈なフレーズの訴求力は15年経ってもまったく変わらない。2003年9月18日リリース。キリンビバレッジ〈小岩井純水果汁〉CMソング。
「18歳のとき、いとこに女の子が生まれたんです。わが家としては久方ぶりの赤ちゃんだったので、すごく祝福されたんです。曲ができたのはその頃。朝、起き抜けにピアノに座ったらもう曲が生まれていた。曲を書くときはいつもそうなんですが、なんでこういうテーマになったのか、振り返って不思議に思うことが多々あって。なんでこういうフレーズが出てきたのか、なんでこういうメロディーになったのかもわからないという。この曲に関しては、去年あたりから歌うときの感情に変化があり、この世界をより丁寧に伝えたい、もっと意味のある歌い方にしなければ、という意識を持つようになりました。デビュー曲だし、代表曲だし、この曲をもっと大事にしてあげないと、という気持ちが芽生えてきたのかもしれません。でも、いまでも不思議な立ち位置にある曲なんです」

■金木犀
TBS系ドラマ「新しい風」の主題歌に起用されたセカンド・シングル。2003年10月16日リリース(2004年5月26日に再リリースされている)。焦がれる想いをストレートに表したラヴソングで、彼女の楽曲の特徴である季節感が色濃く浮かぶ1曲。感情の揺れを巧みに表現する色彩設計も見事だ。
「曲を書いた当時すごく好きな人がいて、けっこう大変な恋愛だったんですが、そこで初めての失恋を経験するんです。18、9歳ですから多感だし、まだ失恋に対して抗う術を持ち合わせていなくて、私がどうしたらいいの?とただただ立ち止まって泣くしかなかった。いま思えば、そういう熱量があった時期だったんだなと。いまはもう恋愛にあれぐらいの熱は注げない。失恋を消化しきれない心模様、感情の行き場をどこに持っていけばいいのかわからない状態から生まれた曲。でも、なんでこういう色が出てきたのか理由がわからない」

■止めないで
毎日放送・TBS系「世界ウルルン滞在記」のエンディング・テーマに起用された4枚目のシングル。2004年11月17日。勢いのある言葉が並べられたいわば一筆書きのような世界が展開する。アレンジはデビュー当時から彼女の作品を手がけてきた林有三が担当。彼女が好きだというアイリッシュ・トラッド・ミュージックのサウンドと相性がいいことを証明する1曲。
「アレンジが成されると曲の世界ってこんなに変わるもんなんだ、とつくづく思えた曲ですね。私、いろんな曲のアレンジを楽しみたい、って気持ちでいまも音楽の仕事を続けているところがあると言ってもいいぐらいなんです。前にタイへ旅行したとき、アイスランド人に歌手だと紹介されて、彼女の前で歌を披露したんです。そしたら私の国の音楽みたいね、って言われて。私も寒い地域の出身なので、もしかしたらそういった地域特有の何かを感じ取ってもらえたのかもしれない。アイルランド音楽が大好きなんです。冬が長いがゆえに春の喜びが大きい、というところもよくわかるというか」

■紫雲寺
新潟地区限定生産された6枚目のシングルで、2005年10月26日リリース。彼女の地元である紫雲寺を歌った曲だが、かの地の風景が彼女の曲作りにどれほど影響を及ぼしているかを伺い知るうえで重要なサンプルとなるだろう。曲の向こうから漂ってくる柔らかな匂いがたまらなく愛おしい。
「どうしても曲のベースになる景色って地元になってしまう。私がどこで曲を作ろうとも、私の身体に染み込んでいる季節の色と匂いが自然と出てきてしまうんです。ホントなんにもないんだけど、あの町が醸す雰囲気が好きなんですよね。この曲は市町村合併されて紫雲寺町が無くなるっていうときに書いたんですが、私は合併された町じゃなくて紫雲寺の人です、という気持ちを強く出したかった。実際のところ、紫雲寺の人にしかわからない風景でもいいや、ぐらいの気持ちで書いたんです。私、紫雲寺って日本っぽくないと思うところがあって、新緑の季節、あほうぼりという堀にいつもひとりで行くんですけど、外国みたいだなって思う。夏の陽射しがさみしくなった感じとか、映画「スタンド・バイ・ミー」みたいだなって思ったり。」

■朧月夜
2006年8月30日に“過去”とのダブルA面扱いでリリースされた8枚目のシングル。どこか絵本の世界のような、ある種ファンタジックな彩りのある曲だが、彼女の歌世界を構築するうえで重要なファクターとなっている〈ひとりぼっち感〉が際立った一作ともいえる。
「私の歌詞って一人称が多いんですが、これなんかまさにそう。お話は、自転車に乗ってお野菜をお使いしに行ったときの実際の出来事でして、しばらく乗ってなかった自転車に蜘蛛の巣が張っていて、そこにいた蜘蛛といっしょに散歩した景色の一瞬を切り取ったものです。いつも歌詞を書くとき、さらっと流れていくようにしたくなくて、何か引っかかるような言葉を入れたくなっちゃう。その言葉が思いがけず物語をボンと膨らませる効果があったりもして、この曲の場合、蜘蛛がその役目をしてくれていると言えますね。」

■今日
2013年1月16日リリースのミニ・アルバム『都会の灯』のエンディングを飾ったミディアム・バラード。かけがえのないものに対する愛情の念を表現しようとする彼女の歌声はいつも以上に温かいぬくもりが宿っている印象がある。
「これは20代後半に作った曲。作ったときは、悪くないから大丈夫、って言い聞かせたいところがあって、今日はすごく深いことを抱え込んでいるけど、今日は今日でしかないからね、って問いかけている。人間諦めが肝心で、諦めをおぼえたのはやっぱり歳を取ったせいでもあるんだけど。きっと10代、20代の頃には諦めなんておぼえる必要はなかった。いまはいろんな経験をしたうえで諦めた先にまた新しい道を見つけることができることを知っている。だから大丈夫だよって言いたい」

■都会の灯
2枚目のミニ・アルバム『都会の灯』の表題曲。都会で暮らす女性のとある恋愛模様を描いたクールな手触りの1曲。ジャジーなサウンド、アンニュイさを湛えたヴォーカルの触感がなんとも新鮮。
「〈昼ドラ〉をイメージして書いたところがある。あのドロドロ感をすごく美しく描いてみたら、さてどんな歌詞になる? そう思いながら世界を選んだんですよね。〈kiss〉をアルファベットにした理由は、〈キス〉にすると昼ドラ感がすごく強くなるから。それから小文字した理由は、大文字にすると、幸せな歌になっちゃう気がして。私にはどこか消え入りそうな小文字が合う。そんな気がして。それから歌詞に描かれた出来事は、正直リンクした経験はありますけど……(笑)。あんまりいい恋愛していないってことを暴露するような曲です」

■家族の風景
2012年8月29日リリースのミニ・アルバム『愚かな願い』に収められたカヴァー曲。ハートフルなフォーク・ソングでもあり、切ないブルースでもあるこの曲のオリジナルは、永積タカシのソロ・ユニット、ハナレグミ。彼の独特な言葉遣いやムードが反映されたこの名曲を、完全にコントロールされた歌唱で歌いこなしたこのヴァーションもまた秀逸である。笹川ヴァージョンは、齊藤 工が監督した高橋一生主演映画「blank13」で使用された。「この曲は私が初めて作品に収録したカヴァー曲なんですが、ベスト盤に入れることに意味があるんじゃないかと思いまして。あの映画で私を知ってくださった方も多数いるという理由もあります。最初にこの曲を提案されたときは、なんて温かくて良い曲かと。この完成されたハナレグミの世界観を料理するにあたって、失礼に当たらないようにしなければ、という意識が働いたと同時に、自分の曲以上に丁寧に歌わねば、と思いました。彼とは先ごろ〈Slow LIVE ’18 in 池上本門寺〉で初めてご一緒したんですが、こんなに気さくで腰の低い方がいらっしゃるのか!と驚いたほど。日本の音楽界にいてくださってありがとう!ぐらいの気持ちでいます」

■紫陽花
他者からの提供曲で占められた最新アルバム『新しい世界』のリード・トラック。シンガーとしてのひとつの到達点となった本作は彼女に、ようやくスタートラインに立ったという実感を与えた作品になった。この曲を作曲したのは、当代きっての名シンガー・ソングライター、大橋トリオ。彼らしいセンシティヴな感じが滲み出たメロディアスなフォーキー・ポップ・チューンとなっている。
「この曲は『新しい世界』のなかでいちばん私っぽくなかったと思う。だから、どうやって私色に染め上げるか、ということでいちばん苦戦したんです。最難関だったのはメロディーライン。重ったるくもなく、かといって軽過ぎることもなく歌えるにはどうすれば?って悩んで。とにかく身体のなかに入れてしっかり咀嚼して出さなきゃ、ということが出した答えでした。楽しいレコーディングだったんですけど、どうです?と周りにいちばん意見を求めたのがこの曲でしたね」

■蝉時雨
桑田真澄が野球監修を行った舞台「野球 飛行機雲のホームラン」のためにこの初夏に書き下ろした新曲。夏が連れてくる郷愁をうまく掬い上げたサウンドもさることながら、彼女らしい和のテイストとアーシーなシンガー・ソングライター的な魅力がいい塩梅でブレンドされている点も聴きどころのひとつ。
「私が出演した舞台の作・演出だった西田大輔さんから依頼をもらって書きました。もともと私の音楽がすごく好きだったということもあったんですが、彼の作品を外側と内側から見てみて、たぶん彼が欲しいものはこれかな、彼の作品の世界観に合うのはこういうものかもしれない、というものをイメージしてみました。打ち合わせで彼が〈蝉〉という言葉を発したんですね。戦争という時代背景があるお話だったので、明日は死にゆくけれど野球がしたいと願う少年たちと蝉のイメージがだぶって、そこから膨らませていったところもあります。夏の儚さや切なさなどを全部詰め込みたくてこういう歌詞にしたんです」

■真実の雫
2つめの新曲は、美しい和旋律に彩られたピアノ・バラード。曲の向こう側に見えてくるのはかすかな光が射す穏やかで広大な風景。めっぽう大きなスケール感を持ったラヴソングでありライフソングでもある。
「私が答えを求めて作っていたところがあると思うんですよね。いまのこのモヤモヤした感覚やこのどうしようもない辛さの理由がいったい何なのかを知りたくて。だから希望的観測で曲を終わらせたかった。この先に待っているものは絶望ではなく希望であってほしい。そして曲を作っているうちに、あ、そういうことか!って気付かされた。だから曲の向こうにそういったものがきっと見えたんだと思います。いまでも暗いラヴソングをいろいろ書いているんですけど、いまの私に対しての答えが欲しい、と模索しはじめたのが30代になってから。それ以降の作品にはそういった傾向が出ているかもしれない」

■高鳴り
色彩豊かで躍動的なサウンドスケープをもった3つめの新曲。夏の景色によく映えそうな笹川の伸びやかな歌唱を聴くと胸が高鳴らずにはいられない。
「今回の新曲作りにおいて、ディレクターさんたちと新しい作り方をしてみたい、って話をして挑んだ楽曲です。初めて、アレンジャーのKan Sanoさんとご一緒して『アレンジに恋をする』という感覚を味わいました。作曲自体も今までの楽曲とは異なる曲が生まれた、と思っていたので、アレンジが上がってきた時に自分自身が高鳴って、曲とタイトルが共鳴しあう感動を覚えました。」

■向日葵-2018ver.-
彼女が12歳のときに書いた曲がデビュー15周年記念のベスト盤のためにリメイクされた。歌詞に描かれているのは、無邪気とも言える恋愛物語で、汚れを知らぬ主人公の無垢な心の在り様が曲全体を瑞々しく染め上げている。2005年10月5日には5枚目のシングルとしてリリースされている。
「この頃は小学6年生だったんですが、私じゃないある女の子と好きな男の子についての物語を絵本を書くようにして描いたんですよね。それまでは同世代のひとりとして感情移入させながら歌っていたんですが、35歳になって改めてこの曲と向き合ってみて、これぐらいの世代の子たちに対して母性のようなものを抱きながら歌っているな、って最近気づきました。もっと慈しみの感情を抱きながら歌うようになっているかも。小さな恋の物語から、家族愛も含んだ大きな愛の物語として歌っているところもあるかな」

ライター:桑原シロー

*文中敬称略