2025.05.30
#91 もみじの裏側のこと
緑麗しな最もお気に入りの季節。
この時期、美しい緑のもみじを見かけると、ついついその後ろ側を覗き込んでしまう。
実家の玄関先にもみじが植っていて、小学低学年の頃、何となくひとり庭散策をしていた時に、その枝垂れるもみじの葉の緑があまりに美しく、ふと、その裏側に入ってみたくなったことが、そのきっかけだ。
実際の枝垂れるもみじの裏は、ほんのり湿り気を感じ、清々しい匂いがし、目の前は新緑一色。
背丈がまだ小さかったので、枝垂れた枝葉に身体全体を包み込まれるような感じがまた妙に居心地が良く、
突然の異空間が癖になってしまった。
でね、それからも何度も何度もその異空間への旅を続けていたのだけど、だんだん没入できなくなってしまった自分がいて。
何でかなぁと寂しく思っていたら、ある時気づいた。
それは、私の背丈が伸びていたこと。
そして、もみじも大きなっていること。
そう、空間が広くなり、私の視界も広くなり、あの最初の時の包み込まれた感じが薄らいできていたからだった。
あの時の異空間への旅が諦めきれず、それで今だに、美しい緑のもみじを見かけると、ついついその後ろ側を覗き込んでしまう。