2024.04.26
#32 ガッチャン怪獣のこと
「美和、アレはな夜になると動くんで。」
と風変わりな叔父に物心ついた頃には教えられていた私。
その上、とても慕っている近所のユーモラスな親戚のおねぇちゃんからも、
「美和ちゃん、アレはね、夜になると首を下げてね、下の海から魚をすくって食べるんよ。」
と良く聞かされていたものだから、私のみならず、二人の弟もすっかり〝真実〟として信じていた。
その〝アレ〟とは、港にあるコンテナ貨物の積み卸しをするガントリークレーンのこと。
笹川家での通称〝ガッチャン怪獣〟。
たぶん、風変わりな叔父が名付け親と思われる。
隣町にある新潟東港は貿易港。
首長竜の姿に似たガントリクレーンは身近な景色だった。
汽笛が聴こえると、それはガッチャン怪獣の鳴き声だと思って耳をそばだてたもの。
他所のガントリクレーンを見ても何とも思わないのが不思議なところ。
夜、月明かりの下、人間の目に触れない様、魚をすくい食べるガッチャン怪獣。
そう空想するのは楽しい。